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第十九捜査 取調室
取調べ室は、煙臭かった。 「あの〜煙草やめません?」 「なんでだ?」 「煙草絶ってるんで〜」 「そうなのかぁ?」 そう言って煙を思い切り俺の顔面に吐きかけた。 俺は顔をしかめながらも受け流した。 「で、お前は誰の連れだ?」 「連れと言われても・・・」 「何の目的であの船に乗ったんだ!」 「いや〜そう言われてもなんとなく」 この繰り返しを坦々と続けられた。 どのくらい時間が経ったのだろうか? バンと勢いよく取調室の扉が開いた。 「何をやってるんだ!」 「スイマセン。思ったほど扉が軽くて・・・」 この声は?声の持ち主を見たらそれは架島だった。 「この方の取調べの必要はありません。彼は警察官です。」 「な〜にバカなこと言っているんだ!お前はよそ者だろう!」 「捕まえたのは我々の成果です。」 「はん、そんな捕まえるだけしか脳が無いお前等がいるから俺たちが困るんだよ!」 「私だけならともかくわが部隊を侮辱するのは撤回してください!」 そう言うと架島はズイと警官に詰め寄った。 「わ、分かった・・・悪かった。」 人相の悪い警官を圧倒する架島は相当怖い顔をしたのであろう。 さて、困ったことが一つある。 それは俺は一応極秘で警官をやっているわけで〜やってることは警官にあるまじき行動を取っている。 ここでおおぴらに警官であると宣言するわけにはいかない。 さて・・・・どうするべきか・・・・。 「さ、行きましょう。」 そう言って架島は俺の手を取った。 「待て!本当にそいつが警官か?そいつは薬中だぞ!!」 ・・・・・・そういや〜、結城に貰った薬のケースがない。 「え?本当なんですか?」 そう言って俺の方を「まさか」と言う目で俺を見た。 「治療中です。」 と俺はボソッと言った。 それを聞いた男は大げさに「ほら見ろ」と言わんばかりに高々と宣言した。 「お前はこいつに騙されたんだよ!」 「そんな・・・・ホントに・・・・・」 かなり衝撃を受けたらしく架島は少しよろけた。 信じたくは無いが・・・・と言う目で俺を見る。 俺は目を合わせないように止めを刺すことにした。 「まさかここまで信じるなんてな〜」 その瞬間俺の胸倉を攫む架島の姿が目の前に飛び込んできた。 「貴方がそんな人だったなんて失望しました。」 ちょっと私的に辛いな〜と思いつつ苦笑にも似た笑いを込み上げた。 架島は礼儀正しく出て行った。 「まったく、お前もバカなことしたな〜」 「は?」 「だってそうだろう?警官ってことにすれば少なからずこの退屈にも似たここから出れて自由になったかも知れねぇ〜のによ〜」 「ああ、そういや・・・・」 言葉を言いかけたとき目の前が真っ白になった。 まさか・・・・俺は自分が立ちくらみを起こそうとしていたのを留めた。 「おい?」 警官は俺の様子が可笑しいことに動揺していた。 「く、薬を・・・早く・・・・」 俺は辛うじてしゃべる事が出来た。 息が途絶え途絶えに成りながら、ドアが開いて警官が去って行ったのを感じていた。 思った以上に早く帰って来た警官は俺に薬のケースを渡した。 俺は不慣れな手つきでどうにか薬を打つ事が出来た。 ハアハア・・・・・荒かった息が段々と収まった。 「スイマセン。ご迷惑をかけました。」 「あ、ああ、大丈夫か?行かなくていいか?」 「え?あ、大丈夫・・・・?」 ふと見ると薬のケースには後一本しかなかった・・・。 「あ、検査に回ってしまって・・・本数が少なくなったのだが・・・」 「え?じゃあ、検査する人には取り扱いには十分気を付けるように言っておいた方がいいっすよ?」 「と、取り扱い?多分大丈夫だとは思うが・・・」 「なら、いいですけど・・・ あ!どこまで話しましたっけ?」 バン!と扉が開いた。 「あ〜なんか飛び入り参加多いっすね〜」 と言いながら扉の方を向くとそこには高波さんが立っていた。 「お前はなんだ?」 「角蝶署の高波だ。 重要参考人がここにいるらしいとの情報があってもしよければ連れて行ってよいか?」 「はぁ?お前署違うだろう!」 「だから今申し出ているだろう?」 ・・・・・・・・・なんでここで高波さんがいるんだ?? 高波さんの後ろに誰か居る気配がある。 俺はそれが誰なのか見てみたら・・・・・・架島? な、なんで?? 「おい、行くぞ!」 「はぁ?なんで〜!!」 「お前・・・聞いてなかったのか? さっきわしが説明したんだからさっさと行くぞ!」 「えぁ?うぁん?」 俺は変な声を出しながら高波さんに引っ張られるように署を出ることになった。 高波さんが乗って来た車に乗り込む。 「高波さん!!」 架島が駆け寄ってきた。 「おお、ありがとな。架島。」 「あの・・・お話が・・・」 「まあ、乗れ」 高波と架島が乗り、車が動き出した。 その時、俺は疑問に思ったことを聞いてみた。 「高波さん、なんでここに?」 「ああ、架島が教えてくれたんじゃよ。」 「俺が、森山さんの携帯で父と言う名の携番にかけてみたら高波さんが出たんです。」 「あ!そういやそんなこと言ったような覚えが・・・」 「バカモン!!」 助手席に座る俺の頭を小突いた。 「まったく、たまたまわしが知っている奴だったから良かったがお前は・・・」 「分かってるって〜こっちもあの時命掛かってたし。」 「その・・・スイマセン。あれは、麻酔銃なんで死にはしません。」 「え?マジで?・・・・・・・騙された〜〜」 「早とちりは命取りと言っているのにまったく・・・」 「命取られなくて良かったです」 「じゃあ、森山さんは・・・警官なんですか?」 「いや、警官って言うより雇われ要員だな〜」 「うわ!ヒド!それ偏見?」 「何を言う殆ど署に訪れることもない奴が警官なんて言えるわけが無かろう!」 「やっぱり・・・偏見・・・・。」 クスクスと架島が笑いだした。 「あ、スイマセン。仲がいいんだな〜って思って・・・」 「な、仲・・・・・・・・いいの俺ら?」 「・・・・・・・・あんまり嬉しくないの〜」 「え?あ、スイマセン。俺的に思っただけですから・・・」 バックミラー越しに見える架島がちょっと落ち込んでいるように見えた。 「架島。お前も署に来るか?」 「え?いえ、出来れば港で降ろして戴けると・・・」 それを聞いて高波さんは、見事なハンド捌きで急に曲がった。 俺はドアに叩きつけられるようになり腰を強く打ったので擦りながら 「乱暴な運転は止めてください!!」 「ちゃんとシートベルトをしないからそんなことになるんだ!」 「え?架島さんも・・・・・」 と思ってバックミラーで架島を見ると明らかに後ろの席なのにシートベルトをしっかりと締めていた。 「架島がなんだ?」 「あ、ちゃんと締めている様で・・・・」 「お前と違って架島はいい教訓を受けてるからな」 「ハイハイ。どうせ俺はいい教訓なんて一つも受けてませんよ〜だ。」 とりあえずシートベルトでも締めるか〜と思ってシートベルトに手を掛けようとしたら車が急に止まり前のめりになりそうになった。 「あの・・・もっとゆっくり止まってください。」 「贅沢を言うな!架島ここでいいかの?」 「あ、はい。有難う御座います。」 そう言って架島は車を出て車を見送る。 「贅沢とか言ってないのに・・・」 そう毒づくように言うとどうやら聞こえていたらしく 「なに?急発進と急停車がいい? よし!おまけ付きで急カーブも付けてあげようかの〜」 「え?あ!ちょ!」 俺は、その言葉に動揺してシートベルトを急いでしようとするがちょうど急停車や急発進のせいでなかなか締める事が出来ない。 シートベルトの大切さを何故か高波さんに教えられた瞬間だった。 命掛けのドライブが終わって角蝶署に着いた。 心身供にげっそりである。 角蝶署の取調室にとりあえず座るとお腹が鳴った。 「まったくタイミングのいい奴だ…」 そう高波が毒つきながら取調室から離れかすかに電話の声が聞こえた。 よく見ればドアが少し開いていた。 俺は・……一応容疑者扱いじゃなかったのかな?高波さん・…。 そんなことを思っていたらカチャと鳴って入って着た。 「もうすぐカツ丼が届く。支払いはお前に付けとくから」 「ええ!!奢ってくれないんっすか!!」 「後で支払わないとトイチで増えるから覚悟が・…」 「スイマセン。払います。」 「それなら、550円になります。」 「550円っすか〜妥当っすね〜」 「あ、請求は1155円だからな」 「え?は〜?今550円って!!」 「そう、だから1155円だ!」 「それは・…高波さんの入れて?」 「そうじゃ」 「そうじゃ…じゃないよ!!ヒデ〜!!詐欺!!」 「手間賃じゃ」 「てま…」 するとコンコンとドアを叩く音が鳴った。 「お、着たか」 そう言って高波は立ち上がり扉を開けた。 すると香ばしい匂いが取調室を埋めた。 それと共にお腹が鳴った。 「ほれ」 そう言いながらカツ丼を目の前に置かれて早速蓋をあけて箸を割り「いただきま〜す」と言って食べ始めた。 「ところで、何故あの船に乗っていたんじゃ?」 「はひ?あひょふゅへになにゅかあるにょ?」 「食べながらしゃべるな!まったく… あの船は前から違法制があるとある意味有名な船だ。」 「ごくん。は〜そうなの? ところで、あの乗客の中で銃とか出てこなかった?」 「なぬ!銃を見かけたのか?」 「決め手が無いけどそれらしいのを見た気がしたけど・…まさかなかった?」 「ああ、殆ど無かった。あそこは賭博違反を犯しているくらいだったな。」 「え?でも公海上はいいんっしょ?」 「ああ、じゃが、あの船自体の燃料をケチり殆ど日本領域のまま賭博をやっていたので…」 「え!マジで…それって乗船者の人達騙されてるジャン!!」 「・…いや、他にもあるんじゃが…」 「他?」 「いや、まあともかく岸という男を知っているか?」 「え?ああ、確かに知っているけど・…まだ見つかっていないの?」 「ああ、で、何か見かけなかったかと思っての〜」 「見かける?って言うか。 なんかこの地区から離れていない感じっす。」 「何?それは本当か!!」 「なんか恨まれてるって風の噂で…」 「恨まれる?誰が?」 「俺が?」 「何故?」 「逆恨み?みないな感じで?」 「・……なるほど…じゃあ、お前に誰か着ければ・…」 「あ!それは止めた方が…」 「何故?」 「ちょっと勘がいい人がいるんで…」 「勘?・・…今ここに着たのは大丈夫か?」 「岸について聞かれたとでも言っておきますよ。」 「そうか、それならいいが… 大丈夫なのか?その…逆恨みと言う奴は…」 「それなんだよね〜。恨まれる筋合いは無かったつもりなんだけどな〜」 「お前は恨まれるぽいな。」 「まさか〜」 「ちなみにわしも…」 「え?何故?」 「いや、それをわしの口から言うのは・…」 「ここまで言っておいて…」 言えよとはとてもじゃないが言えなかった。 高波の顔はさっきまでとは違った険しい感じになっていた。 「あ、いや…いいや。なるべく恨まれないように心がけます。」 「まあ、そうしてくれると… また、新たなことが分かれば教えてくれ。」 「ラジャ〜」 俺は署から出ることになった。 さてと帰ろうかな〜と思って一歩踏み出すとクラクションが鳴った。 そのクラクションからはまっちゃんの姿が現れた。 「ま…まっちゃん?」 まっちゃんは指で乗れと合図した。 俺は迷わずに車に乗った。 「よくここが分かりましたね。」 「俺の情報舐めてない?」 「・……そういえばそうでした。」 「それにしてもここには何しに着たの?」 「ああ、岸さんの行方を捜しているらしくて参考人として…」 「なるほどね〜警察も大変だね〜。」 車が味岬の方と逆に行くので不思議に思ってまっちゃんに聞いてみた。 「方向が違うみたいですけど?」 「ああ、大丈夫これからパーティーがあってそこに行こうと思っているんだ。」 「ぱ・…パーディー?でも俺・…」 「ふと見ると俺はあの船のタキシードのままだった。」 「そのままでもいいしょ」 「いや…出来ればスーツになりたいです。」 ふとバックミラーから様子を窺っている運転手を見た。 「あの運転手さんの服は…スーツっすよね?」 「あ、そうだね〜どうせ車から出ないから…」 「え?な、なんですか?」 運転手はその言葉に戸惑いの色を見せていた。 <<BACK NEXT>>