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第十二捜査 涙
キャバレーに着いたがやはり時間的に開いていない。
当たり前のことに俺は脱力した。
「あら?勝山さん?」
呼ばれて振り向いた先にママがいた。
「あら、やっぱり、あの後大変だったでしょ?」
凄い!一回しか会っていないのによく覚えていることに吃驚した。
「こんな時間にどうされたんですか?」
「え?あの〜ちょっとお話が…」
「じゃあ、中にどうぞ」
そう言って招かれて中に入った。
誰もいないとかなり静かだ。
「何か入れましょうか?」
「あ、いえ、お構いなく…」
「お話は何かしら?」
手際よくコーヒーを入れてくれた。
「あの…峰志さんのことなんですけど」
「ええ。」
「その、峰志さんの家族のこととか聞いたことありますか?」
「家族?どうしてかしら?」
う〜ん、本当のことを言っていいのか??
でも、言わないと納得いかないと思うし〜
と困惑していると…
「いないわよ。天涯孤独って言ってたかしら?」
「い、居ないんですか?」
そうか〜じゃあ、そういうことで結城に伝えておくか〜。
「なにか、あるんでしょ?」
ママの目はかなり真剣だった。そんな目に嘘などつけることが出来ない俺は…
「あの…峰志さんが今ちょっと危険な状態で…その…」
「え…危険ってどういうことですか!」
ママは今までの落ち着きなどどこへやら?取り乱していた。
「今、病院で…治療してるんですけど…」
「どこ!どこの病院!!」
「田宮総合病院です」
今にも飛び出しそうな勢いだった。
俺は思わず止めた。
「今は、偽名になっているのですぐにはわかりませんよ」
ママの目から涙が溢れていた。
「え?あの、その・…」
俺は慌てて拭く物を探した。
「大丈夫、ごめんなさい。」
ママは落ち着くように深呼吸した。
「彼は・…本当は私の兄なの」
な、なんですと!!!似ても似つかない気が…。
「でも、これは孤児院に居たときだけだから今は違うの」
「こ、孤児院から引き取られたからですか?」
「ええ、私だけだけど…、兄と会ったのは、私が家出したときだったの」
「家出?」
「引き取ってくれた家族に本当の子供が出来てから折り合いが悪くなってね。
今じゃあなんの連絡もしていないわ。」
少し黙った後、続きを話出した。
「家出して友達の家にも泊まれなくなったときだったの。
兄は、スーツを着て凄く怖い人のように仁王立ちになっていたわ。
私は通り過ぎようとしたとき兄のペンダントを見つけたの。」
「ペンダントですか?」
「昔、母がくれた最後の品。別れるときに二人の目印にしようって・…」
ママの手には、そのペンダントだろう物が握られていた。
「勝山さん、私を兄の下に連れて行って欲しいの」
「え?はい。」
ママを俺は、峰志の元へ連れて行った。
ICUに直行しながらふと気付いた結城に言わないと!
「えと〜」
「え?はい」
ママは俺の意図を察してくれたらしく立ち止まった。
一分一秒と行きたいだろうに…。
「ちょっと待っててください!」
俺は慌てて結城を探そうとした。
角をちょうど曲がると誰かにぶつかった。
「いててぇ〜スイマセン」
ふと顔を上げるそこには沙木沢が尻餅をついていた。
そして、目が合い俺の顔を見て眉毛がハの字になっていった。
「君は確か〜」
あわわ〜
「沙木沢先生急いでください。」
「わかった。君、これからは気をつけたまえ」
ナースに煽られて俺のことを思い出すのを止めたらしい。
「はい。すいません」
か〜なんか俺が謝るのがめちゃくちゃ悔しいが…まあこっちも悪かったし…。
っとそんな場合じゃないや。
ナースステーションに行くとうん?見覚えが??
「御用はなんですか?」
「えっと〜結城先生をお願いしたいんですけど…」
「どの結城先生ですか?」
「え〜と〜」
どの〜??どの?どこなんだ!!結城!!!
悩んでいるとナースが俺の顔見て少し小首をかしげながら…
「あれ?もしかして森山さんですか?」
「え?あ!そうですけど〜」
「やっぱり!じゃあ、結城先生呼びますね。」
「あ、お願いします。」
名札がちらちら見えて〜春日かや?・・…あ!かやちゃんって呼ばれていた人か!!
やっと思い出してちょっと肩の荷が下りた気がした。
「結城先生は今、ICUの方に居ますね〜。ICUの前で待っていてください。」
「有難うございます。」
「いえ〜、何かあったらまた言ってくださいね」
にっこりと微笑が〜って思ったら意外にあっさりと去って行くかやちゃん。
あっけない。
まあ、いいや、ICUへ行けばいいんだったな。
待たせていたママを連れてICUへ向かった。
ICUに着くと同時にICUのドアが開いて結城が出てきた。
「結城先生。」
俺はママの前なので先生をつけた。
結城の奴がわかってくれるかどうか〜。
「こちらへ」
わかったのか?
結城に連れられて峰志のところに来た。
「今はかすかに意識はありますが、無理はさせないで下さい」
そう言って去っていった。
ふぅ〜どうやらわかってくれたようだな〜。
「兄さん」
駆け出すようにママは峰志に近付いた。
「まゆ…み・…。」
なんかこの場に居てはいけない気がして俺はいそいそと出ようとした。
「勝山さん!」
呼ばれて振り向くとママ…ことまゆみが俺の手の中に忍ばせた。
「これは?」
「よく分からないけど…兄にとって大事な物らしいんです。」
大事?
そういえば、机の下がどうとか??
これが何か関係あるのか?ただのペンダントに見えるが??
「勝山さん、すいませんけど、兄と二人きりにして頂けますか?」
「え?はい。俺ちょっと用事思い出したんでゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」
泣きそうだが精一杯の笑顔を返してくれた。俺は静かに出て行った。
ポンと肩を叩かれて振り返ると結城が顎で催促する方へと向かった。
個室に通されて結城の割には少し怖い顔している。
「結城?」
なかなか返事を返さない。
「結城!!」
少し嫌な予感がしてキツめに問いただした。
結城は重い口を開けた。
「残念だけど…田中さんは…。持って1ヶ月だ」
「え?……あ・・…まさか?」
俺は椅子から落ちそうになった。
「内臓がかなりやられてて手遅れなんだ。」
「でも撃たれただけだって・…」
「・・…一発じゃないよ。連射でしかも破裂弾で…」
「わかった」
俺は聞くに堪えがたくて静止させた。
「彼女は…?」
「実の妹だそうだ…」
「肉親か…辛いが伝えていいだろうか?」
「・……ああ」
峰志さんが・…信じられないな・…。
「かっちゃん…。」
「あ、なんだ」
肩をポンポンと叩いて結城は去って行った。
俺の頬に熱い物が流れた。
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